Xerpaブログ|日本のサービスで外貨をかせぐ

日本のサービスが海外で勝つための方法を考えるブログです

海外責任者50人と対談|日本SaaSの海外問題

ほぼ毎日のように飲みに行くため、嗅覚でイカの一夜干しがありそうな店がわかるようになった私(嘘)です。

お酒は別に好きじゃないんですが、飲む雰囲気は好きでして。

特に、海外サービス展開を志すものとしては、同士との情報交換は熱くなれる瞬間でもありまして、ビールがめっちゃすすみます。ビールが進むと議論もすすみ、そして忘れてしまう笑

かれこれ、この1年で50名近くの海外展開責任者に会ってきました。すべて、SaaSサービスを展開している方々です。非常に限られたリソースの中で、自社サービスを実際に営業して、海外のお客様の反応を感じている張本人たちは面白いです。

これまでの対談で感じた、唯一無二の日本の課題を書いてみました。あくまでIT系サービスに限った話で、製造業や商社、人材紹介業は全く別の議論です。

 

1. ほとんどの海外展開が「テスト」

私 :「なぜ、御社は海外展開するのですか?」

先方:「海外の成長で日本の落ち込みをカバーするんです」

私 :「いつまでに、どれくらいカバーするんですか?」

先方:「それを、いま探ってます」

私 :「その目標設定が先にないと国とか選びにくくないです?」

先方:「そうなんです。でも幹部に『どれくらいの市場があるのか』を示すのが先なんです」

私 :「結果次第では、海外に出ないという選択肢もあるんですか?」

先方:「いや、『海外市場を開拓しろ!』がミッションなので...」

こんな会話が9割くらいの確率で起こります。

おおむね、「海外=日本以外」という大きなくくりをして、担当者を2〜3名張って「開拓しろ」と号令されているようです。ここでの問題は、「どれくらい開拓しろ!」という明確なゴールが設定されずに走らされている人が多いこと。このため、責任者側から幹部に対して、海外に対する明確なゴール設定と日本同等のリソース配分の嘆願されます。

一方、幹部の言い分も聞いています。それは、「海外市場がよくわからないので、正直ゴール設定が難しい」というまっとうなもの。期待はしたいけど、どれだけ期待していいのか分からないのです。

両者ともに非常に合理的な回答です。このため、多くの場合は「目標設定をするために、まずは小さくテストでやってみますか」という折衷案に落ち着きます。

上の会話例から論理をつなげてみると、こうなります。

  • 海外の成長で日本の落ち込みをカバーしたい
  • でも、目標設定が難しい
  • なので、まずは小さくテストをやってみる

「まずは小さくテストをやってみる」という言葉において、「なにをテストするのか」が文字で明確になっていないことにお気づきでしょうか?対談していく中で、ここを明瞭にできていない会社はほぼすべてでした。ウチも含めて笑

そして、これがのちのち大きな問題の根源になります。

 

2. 「小さくテスト」が生みだす、海外責任者の迷走

テストする上での次の議題は、どの国に進出するか。ここらへんから、海外責任者の責任範囲になります。

海外責任者はGDPや人口成長率などを調べて、国を選びます。そして、国が決まると、人が派遣されます。

ここで、先ほど言った「なにをテストするのか」問題が起こります。というのは、海外に派遣された責任者が「なにをテストするのか」を勝手に次のように読みかえるからです。

「(選定された国で、ウチのサービスが売れる可能性を)テストする」

地味ですが、これは本当にマズい読みかえなんです。

例えばインドネシアを選んだとしましょう。

本当にテストしたかったのは、「日本の成長の落ち込みを、埋め合わせられるほどの数字をもつ市場が海外にあるのか?」です。

なので、インドネシアは世界市場代表として位置づけて考えなきゃいけないんです。培養液みたいなもんなんです。たとえ、インドネシアナシゴレンが美味いからといって、他の国にないナシゴレン料理の腕を磨くのは本末転倒なんです。

でも、100%転倒します笑

インドネシアでウケるのはナシゴレンです」「ベトナムならフォーです」と、各国をミクロに捉えた派遣駐在員が、その国でしかウケないものに注力しはじめます。そして、それをローカライズ、と名付けて納得します。

 

3. ローカライズしてもローカルSaaSには勝てない

複数の国にも共通する市場を狙うから、グローバルプレイヤーの価値が出るのです。ナシゴレン調理器具ではなく、パクチー専門調理器具を作る、という視点です。1カ国ごとに撃破するなら、それはグローバルプレイヤーというよりも、ローカルプレイヤーの集団です。

つまり、各国ごとにローカライズするのではなく、各国単体では小さいけれども国をまたげば大きな数字になるマーケットこそグローバルプレイヤーが狙うべき領域です。

グラフィックデザイナー、CADデザイナー、エンジニア、一級建築士、弁護士、会計士など、このような、単体ではニッチだが国横断で存在する市場こそが狙い目なのです。

しかし、国を担当者に任せると、担当者はその国だけを見て成功レシピだけを考えます。単独では売上の小さいニッチマーケットなんて手を出すわけがないのです。

「2.5億人いるインドネシアだけでも成功できたら十分じゃないか」

と、今思いましたよね。もし御社が、SaaSで全人口をターゲットにできるサービスを持っているなら正解です。Amazon Web Servicesのような規模で戦えるのなら。

でも、ほとんどの会社は年間1億円も海外に張っていません。そんな小さな投資で、その国をとれると思うのは、少し虫が良すぎませんか?また、普通のサービスには「ターゲット」があり、それは全人口ではないはずです。

さらに、市場が大きければ大きいほど競争は激しく、ローカルになればなるほどローカルプレイヤーが強いんです。インドネシアAmazonではなくTokopediaですし、シンガポールはShoppy、ベトナムTiki、中国はAlibabaなんです。

 

4. 日本で解決しているお客様の困りごとを海外にも展開する

ここまでの話の流れにのると、「日本の市場の落ち込みをカバーすべく、単体ではニッチだが国横断で存在する市場があるのかを○○国でテストする」となります。

なので、テストする国を決める前に、「国横断で存在する市場」に対する仮説が必要になります。

そこで、大事なポイントが。みなさん、すでに日本人のお困りごとを解決しているサービスなんです。であれば、そのお困りごとは「国横断で存在する市場」の1候補ですし、実際利用されているので最も堅い候補なんです。でも、話はそう簡単にすすまない。

 

5. 日本の成功に自信がない経営者と真実を伝えない駐在員

100人の経営者にあうと、ほぼ99人は「日本はわかるけど、海外はわからない」と言います。謙虚ですばらしい!

でも、日本だって世界のひとつなんです。なぜ、日本だけ特殊と思うのでしょうか?この点、アメリカ人は強いです。アメリカが世界だと思ってるくらい自信過剰。トランプ大統領を見ればわかります。

なので、日本人幹部は「日本での成功事例を海外展開する」というと「海外はそんなに甘くない」と言って返します。ちょっと前には、海外がわからないと言ってるのに。でも、その事例は会社の財産であり資産なんです。でも、自信がない。

一方、海外駐在員はどんな感じかというと、いつのまにか国の代表者になっている。「社長、インドネシアでは特有の商習慣があり、日本とは違います」とか言ってくる。そんな部下の自信あふれたローカル情報に、社長も「そうか!やっぱり現地に根付かないと駄目だな」とか言ってる。最悪は、ローカル社員が言う言葉を、そのまま鵜呑みにする。

駐在員は自分の存在意義を出すために、その国を独特な市場に色付けしたがります。また、都合の悪いことは「伝える必要のないこと」としてレポートしません。こうして、ますます経営者は海外が「わからなく」なるのです

 

ここまで、つらつらと「あるある」を書いてきましたが、私の思う処方箋をここに書いておきます。

 

まとめ:テストの際には①国ではなくターゲットを、②日本で成功しているターゲット初期仮設にして選ぶ。そして、国責任者ではなく、ターゲットごとの責任者(CTO:Chief Target Officer)をおく。

SaaSが海外にでるなら、営業、経理、エンジニアといった職種軸と、製造、建築、運輸などの産業軸の2種でターゲットを選びましょう。その際には、日本でのユーザー層を参考に、複数候補を選びます。そして、その候補のなかから、他の国にも普遍的に存在しているターゲットを仮説として選び出します。

そして、責任者は国に置くのではなく、ターゲットごとに置きましょう。そして、国単位でテストするのは、その仮説が日本以外でも実証できるかであって、その国単独での生き残りではない、ことを明確にします。

そこには、経営者のコミットが必要です。駐在員に任せきりでは、本当の情報は上がってきませんし、彼らは現地での生活に惰性でなれていくだけになります。

 

最後に

日本にベンチャーキャピタリストと言われる方々にも話を聞いてきましたが、彼らから得られるものは何もなかった。正直、日本人のVCの殆どの方は銀行員と変わりません。変わるのは、Tシャツが許されるかどうか、くらい。

本当に大変な目にあいながら、日本のサービスを海外に展開しようとしている人々(メルカリさんやユーザベースさんなど)は、全国民をあげて応援してほしいです。

 

少し言葉が過ぎました。Hasta luego